イタリアの夏といえば海であり山である。あるいは丘、そして湖であろう。
ミラノの週末の動きは4月下旬にもなれば自ずとはじまることになる。春を抜け出し初夏を感じさせる風に煽られるように行楽へ向く勢いが高まる。いかにもイタリア人らしくバカンス期を目指して各々が加速していくのである。
日本ではゴールデンウィークがひとつのピークとなり、そのあと一度平穏が戻って夏季へと向かうというのが一般的であろうが、イタリアは違う。秋口から4月の上旬までいろいろな行事がありながらも士気がまったく上がってこない鎮静期がつづく。そして4月も中旬を過ぎて陽光が眩しくなりはじめた途端どこかにあるスイッチでも入ったかのようにそれぞれが夏への階段を上ることになる。一度上りはじめたらブレーキは利かない。ラテンのリズムは振り返ることすらままならず気温の上昇とともに盛夏へ向かって突っ走っていくのである。
そういうことで4月を過ごして5月になると気持ちだけに留まらず、車に乗っかり生活の場を離れて海、山、丘、湖に出掛けるのが筋金入のイタリア人ということになる。はじめのうちは一泊二日、それが二泊三日になり気付いた頃には週の半分以上を自分たちのパラダイスで過ごすことになる。
従来なら渋滞極まりなくクラクションの交錯が絶えないミラノの街もそのくらいの週末になると車の数が減りかねて難しい駐車事情が一変、あちらこちらに自由なスペースを見つけることができる。ミラノ残留組には何ともありがたい話しであるが、時として中々そのプレ避暑地を目指せない自分にもどかしさを感じることもある。四半世紀イタリアに暮らしてもいままだ日本人の皮を剥げないでいるのである。
ミラノは結構な平野部(ポー平原に立つ都市)なのでどこに行くにもある程度の距離を動かなければならない。かといって飛行機を使うほどの大旅行になるわけではなく、たとえば一番近い海の町だとジェノヴァであり車で約2時間ほど、本格的な山を望むならばアオスタやオーストリア(チロル地方)国境近くのボルツァーノ辺りだろうか。こちらは4時間ほど走らなければならない。
ただ、まだ5月だというのにそのくらいの距離を往復して週末を楽しむほど自分はイタリア人になっていない。よいところワインの美味しい丘や風光明媚な湖というのが無難なところ。今回は自分がこよなく愛するイタリアの湖を幾つか紹介していきたい。
堂満尚樹(音楽ライター)

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